昭和初期の記憶2

 中州で近所の子供たちと遊んでいた時、子犬を拾ったことがある。とても可愛い子犬だったので、しばらく一緒に遊んでいたが、いざ帰る段になると、連れて帰るものは誰もいなかった。子犬は川を渡ることができない。そのまま死なせては可哀そうだと思い、こっそり連れ帰って、物置小屋の隅でしばらく飼っていたが、やがて家の者に見つかり、捨てに行くことになった。
 涙ぐんでいた私を母が見て、お前が自分で世話をするなら飼っていいよと言ってくれたので、以後、その子犬は、ペチと名づけられて我が家に棲みつくことになった。
 当時の飼い方は、今のように鎖に繋いで飼うわけではない。あくまで放し飼いである。ペチは残飯に味噌汁をぶっかけた餌をがつがつ平らげると、町内の野良犬と一緒に遊びまわっていた。今にして思えば、犬にとっても人間にとっても、どこかのんびりしていたよい時代だったような気がする。