2009-01-01から1ヶ月間の記事一覧

敗戦の日

中学三年の夏、1945年、昭和二十年八月に敗戦の日を迎えた。ラジオの臨時放送で、天皇が不明朗な声で敗戦を告げると、家の中が一瞬、鎮まりかえった。父は目に涙を浮かべ、母は押し黙った。昨日までの張り詰めた思いは、嘘のように消え、言いようのない…

将校

戦時中、軍事訓練を担当していた配属将校の一人に岡崎中尉がいた。中尉は、足利の北にある北郷村の出身で、見るからに軍人らしいがっしりした体つきの男だった。 彼は、主に軍隊式の隊列の組み方や三八式歩兵銃の扱い方などをわれわれに指導していた。その岡…

丸山先生という人

ここで話を丸山先生に戻そう。先生とは国語教師として、また中学一年から五年までのクラス担任として顔を突き合わせていた間柄である。 先生は、ようやく三十路を越えた頃だったろうか。見るからに、水母のような水気の多い肥満体質で、厚みのある肩の上に載…

戦時下の足利中学校

私の通っていた旧制足利中学は、市の北のはずれ、両崖山麓にあった。渡良瀬川畔のわが家からは歩いて30分ほどの距離である。 街中を抜けて、一面に稲田が広がる本城田圃を真っ直ぐ北に進み、途中、山沿いの道を左に折れると校門が見えてくる。校門の正面、…